夏と餃子

夏と餃子

YURI(30代前半)

いとしのグリーンに囲まれて

履歴書の特技欄に「餃子を焼くこと」と記入するのを真剣に検討したことがあるくらいには、餃子を焼くのが得意だったりする。
パリッとした羽根付き餃子を焼き上げるまでのライブ感はある種のエンターテインメントで、大人になった私の夏休みの自由研究に近しい存在である。

閉め切ったキッチンの室温は瞬く間に急上昇。今年の夏はこうもひどく暑いから、夏バテ対策を言い訳に、ニラとネギはましましで。
ヘッドホンでお気に入りの音楽を聴きながら無心でタネをこねていると、不思議と感性が研ぎ澄まされていく。リビングとキッチンを隔てるドアの隙間から這い出た冷気が無防備な素足を撫ぜていき、思わず擦り合わせた足先では昨晩塗り直したばかりの枝豆色のネイルがぴかりん。

鼻歌交じりにキャミソールの肩紐を直しながら、冷蔵庫から餃子の皮とキンキンに冷えたレモンサワーを手に取る。料理をしながらキッチンで立ち飲みする缶チューハイのおいしさったら。安上がりな女で結構、片手でプルタブを開けられるなんて密かな自慢も、きっと私しか知らないのだから。

視線を上げれば、窓際では再生栽培中の豆苗が元気いっぱい伸びている。これはサクッと豆苗炒めにしてしまおう。脳内で香る油とニンニクと鷹の爪の風味をつまみに缶チューハイをさらにあおる。 賑やかなリビングから聞こえる笑い声に合流するまで、あと少し。

大好きなパクチーは苦手な人もいるから別添えで。刻んだ長ネギとラー油をたっぷり入れたピリ辛ネギだれが我が家の定番。後半は酢胡椒でさっぱりと。
いよいよ羽根づくりの仕上げ、回しいれたゴマ油の熱された香りがあたりに充満して、服に、髪に、染みついていくのを感じるのもまた餃子づくりの醍醐味。

モコモコの泡に包まれて、全身にこびりついた油の匂いを暑さごときれいさっぱり洗い流す瞬間は、夏のお楽しみのそのまたひとつ。

近頃のお気に入りはダイアンビートゥルーのシャンプーとトリートメント。香草ラバーの私だから「パワーグリーンサラダの香り」という名前にビビッときた。爽やかだけどどこか一癖ある香りが大正解。ナチュラル成分で地球にやさしいところも好き。

こんがりキツネ色に焼けた餃子を大皿にあけ、飲みかけのレモンサワーとともにお腹をすかせた友人たちのもとへ。食べて、飲んで、笑って、夏の夜の楽しみを見つけに。